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医療ガバナンス学会 Vol.102 個別指導の後の診療報酬の自主返還 - 津曲

2017/05/15 (Mon) 10:24:56

http://medg.jp/mt/?p=7541
医療ガバナンス学会 Vol.102 個別指導の後の診療報酬の自主返還
医療ガバナンス学会 (2017年5月15日 06:00)
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井上清成
個別指導
診療報酬

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2017年5月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.自主返還の金額の状況
保険診療の報酬請求につき、地方厚生局による個別指導・適時調査・監査が行われると、その後に自主返還を迫られることが常態化している。形式は、保険医療機関自身で自主的に点検して、自主的に支払基金や国保連に返還するという名目ではあるけれども、その実質は、地方厚生局による行政指導のために、やむなく返還をせざるをえない。
ここ数年、我が国全体で毎年120億円から140億円くらいが自主返還させられている。平成27年度についてみれば、我が国全体(指導、適時調査、監査によるものすべて)で124億3737万円で、そのうち、指導による返還分は45億1089万円であった。指導による返還は、ここ数年、30億円から40億円台の金額で推移している。
しかしながら、個別指導の後の診療報酬の自主返還には、法的にみて、問題が潜んでいるように思う。

2.自主返還の法的根拠の薄さ
個別指導の後の診療報酬の自主返還については、法律(健康保険法など)にも省令(療養担当規則など)にも告示(診療報酬改定など)にも保険局長通知(指導大綱など)にも、その定めはない。厚生労働省(当時は厚生省)保険局医療課長通知とか厚労省保険局医療課医療指導監査室事務連絡「指導大綱関係実施要領」といった、もっと下位レベルの規範で定めているだけである。自主返還は、経済上の措置として重要な事柄であるにもかかわらず、上位の法令に明文の根拠を有していないというのは、行政権の法治国家的な施行としては根拠薄弱なものがあると評せざるをえない。

具体的には、「指導大綱における保険医療機関等に対する指導の取扱いについて」(平成7年12月22日付け厚生省保険局医療課長通知)の「4.経済上の措置について」の項目に定められている。たとえば、その(1)では、地方厚生局は、「個別指導において診療内容又は診療報酬の請求に関し不当な事項を確認したときは、当該保険医療機関等に対し事実の確認を行ったうえ自主点検を求める。自主点検の結果、指摘した事項と同様のものが確認されたときは、指摘した分と併せて自主返還を求める。」と定められてはいるが、この種の規定は本来ならば、省令または告示、少なくとも保険局長通知のレベルで明文にて規定されてしかるべきであろう。

3.自主返還の組織規範としての薄さ
地方厚生局が保険医療機関に対して自主返還を求めることは、法的に分類すれば「行政指導」に当たる。ここで重要なことは、行政指導は「その任務又は所掌事務の範囲内」でなければならないということであろう。行政手続法第2条第6号や第32条第1項にも、明文でクリアーに規定されている。

ところで、診療報酬の支払義務者は健康保険組合などの保険者であって、国でも厚労大臣でも地方厚生局でもない。保険医療機関(の開設者)による診療報酬請求に対して、審査や支払いをするのは保険者である。せいぜい保険者は、健康保険法第76条第5項などの明文の定めによって、「審査及び支払に関する事務」を「社会保険診療報酬支払基金」または「国民健康保険団体連合会」に「委託」していることはあっても、国・厚労大臣・地方厚生局に委託することはない。つまり、国も厚労大臣も地方厚生局も、診療報酬請求に関する審査も支払いもその権限はないのである。

もともと国・厚労大臣・地方厚生局は、一般的抽象的な法規範(療養担当規則、診療報酬改定告示)を定立し、それを普及・遵守させるべく研修・教育し、不正行為を調査して指定・登録を取り消すことしか、法律(健康保険法など)上の権限はなかった。つまり、個別的具体的な事例での自主返還の求めは、そもそも国・厚労大臣・地方厚生局の「任務や所掌事務の範囲」の外だったのである。このような意味で、自主返還にはその組織としての規範にも根拠薄弱なところがあると評しえよう。

4.指導後の自主返還の改善
個別指導後の自主返還は、以上のとおり、自主返還の法的根拠としてみても組織規範としてみても、いずれにしても薄い。適切に法的根拠や組織規範を改正して補強しつつ現行の運用を維持するか、それとも、少なくとも個別指導後の自主返還だけは無くす方向で見直すか、そろそろ再検討すべき時期が来ていると言えよう。
なお、いずれの方向性で行くにしても、現行の運用には直ちに是非とも改めたい点が、少なくとも一つある。

それは、地方厚生局によって度々、「指導の要点をカルテに記載することを条件に算定が認められている診療報酬について、カルテに指導の要点を記載していない」事例などとして指摘されていた。たとえば、「特定疾患療養管理料について、治療計画に基づいた服薬・運動・栄養等の指導内容の要点の診療録への記載がない例については算定できないので改めること。」「特定疾患療養管理料の算定について、診療録への主病に対する療養上の管理内容の要点の記載が不十分な例が認められる。記載に当たっては、個々の患者に応じた栄養・運動・服薬指導をしてその要点を記載すること。」などと指摘されて、特定疾患療養管理料の自主点検と自主返還が求められることもしばしばある。

もちろん実際に服薬指導等を適切に行ったケースが前提ではあるが、たまたまカルテにその要点記載が抜けてしまっていただけで、直ちに自主返還だというのでは、当を欠く。当該保険医の記憶もはっきりしていて、ただ繁忙などのためにカルテ記載が抜けてしまっただけの場合には、自主点検する際に、カルテを適切に追加記載したとしたならば、もうそれで自主返還の必要は無くなったものと考えてもよいのではなかろうか。もともとカルテに追加記載(補充・修正記載)することが正当化される範囲においては、当該特定疾患療養管理料などの請求取下げとその追加記載後の再請求が可能なのと同じ法的論理で、診療報酬請求行為の瑕疵の治癒(カシのチユ)を認めて、自主返還を不要と考えていくことが医療政策としても妥当と思われる。

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