医師診断前の保険適用判断なぜできる？　装具不正請求 - 津曲

2017/08/20 (Sun) 10:42:56

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医師診断前の保険適用判断なぜできる？　装具不正請求
沢伸也、月舘彩子
2017年8月19日20時22分
写真・図版
治療用装具作製の際に医師から出された証明書類


　健康保険から作製費が支払われる治療用装具を装って、安眠枕やオーダーメイド靴を不正に作っていた事例が相次いで発覚した。「自分にあった枕を作れます」「おしゃれなデザインの靴、贈り物にも」。装具業者のチラシやホームページには、そんな文句が躍っていた。

治療用装具、不正請求相次ぐ

　「あなたは真面目に枕を選んだことがありますか？　枕えらびの基本は、素材、高さ、形、大きさ、耐久性のチェックです」

　大きな文字で書かれたチラシが、名古屋市内の整形外科医院に置かれていた。「オーダーメイドで製作する」「担当義肢装具士が採寸します」と続き、最後に「詳しくは院長または看護師までお尋ねください」とあった。

　ログイン前の続き約５年前、中部地方の健保に、「治療用装具として枕をつくった」と患者側から作製費の請求があった。健保の内部資料などによると、この病院の医師が枕を「頸椎（けいつい）装具」とする証明書類を出していた。患者は医師から「領収書を健保に出せば返金してもらえますよ」と言われたという。健保は支払いを拒否。約１万５千円の作製費は患者が全額負担した。健保が調べたところ、同じ装具業者が作った枕の作製費の請求がほかにも複数あったという。

　別の健保には約２年前、治療用装具として足首のサポーターの購入費が請求された。しかし、現物を調べると同じサポーターがインターネットで販売されていた。サイズは「Ｓ・Ｍ・Ｌ」。治療用装具は患者に合ったものを作る前提だが、市販品だった。しかも、健保への請求額はネット価格より２倍高い約７８００円だった。

　東京都内の靴店のホームページには「お気に入りの一足ができるまで」と題した写真付きの案内図が掲載されていた。最初に「ヒアリング　保険の適用有無」とある。保険適用を判断するのは医師であるはず。それを靴店がするという。その後、「足の型どり」をして「病院（提携病院）で診断」、そして「お気に入りの一足の完成」となっている。

　なぜ、医師の診断前に靴店が保険適用を判断できるのか。靴店に取材すると、「私らが見たら一発でわかる。どこの病院に行っても、お医者さんが靴が必要と判断してくれる」と話した。しかし、取材後にホームページが変更され、医師の診断後に靴の作製という流れになっていた。この医師も「今回の取材を受け、不適切な手続きであったと真摯（しんし）に反省し、改善しました」と回答している。

■協会けんぽ、原資は保険料や税金

　中小企業などが加入する協会けんぽは、治療用装具の費用として２０１５年度だけで約５５億５千万円を支払っている。原資は、中小企業の社員などの保険料や税金だ。国民健康保険や大手企業の健康保険組合も治療用装具に多額の費用を払っているとみられるが、個別の集計は取っていない。

　今回、複数の健保が治療用装具の現物を確認すると、多くの不正請求が見つかった。同じ装具でも、障害者用装具は自治体に費用申請する際、現物を確認する。書類だけで費用を支払う治療用装具の現行の制度に問題はないのか――。

　ある健保幹部は「今の制度では書類をチェックするだけで、不正請求があってもわからない」と話す。一方、厚生労働省の担当者は「医師の指示によって信用性が担保されている。不正が起こることを前提にしていない」という。しかし、今回、医師も加担している事例が散見された。

　大手装具業者の担当者は「医師も診察すれば診療報酬が入るというメリットがある」と話した。医師と業者との関係について「医師を接待して自社の装具を使ってもらうことも過去にはあった。医師に気に入られないと仕事を任せてもらえない」とも明かす。

　不正が発覚すれば、健保は患者に作製費の返金を求めることになる。ただ、多くの患者は治療用装具の知識がなく、業者や医師から不正だと聞かされずに健保に請求している。ある患者の家族は「医師に大丈夫と言われた。不正だとわかっていたら装具を購入しなかった」と話した。（沢伸也、月舘彩子）