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医療費、伸び抑制しなければ国が持たず - 舛添要一・元厚労大臣に聞く◆Vol.3 - 津曲

2017/12/10 (Sun) 08:31:53

https://www.m3.com/news/iryoishin/566896

医療費、伸び抑制しなければ国が持たず - 舛添要一・元厚労大臣に聞く◆Vol.3


医学部定員、炯々に減らすべきでない

スペシャル企画 2017年12月9日 (土)配信聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)

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――752日間、厚労大臣を務められて、何か積み残した課題、あるいはもう少し時間があれば可能だったという点はありますか。

 例えば、薬害C型肝炎訴訟にしても、未然に防ぐ体制はもちろん、実際に何らかの問題が起きた場合に、厚生労働省、財務省、法務省が協議をして、国家賠償などの解決方法を迅速に見いだす枠組みを作るべきでしょう(編集部注:薬害C型肝炎訴訟は、フィブリノゲン製剤によりC型肝炎を発症した患者らが、製造元と国に損害賠償を求めて提訴、最終的に対象患者全員を救済するための議員立法の法律が成立)。



最近の医療行政の動向を尋ねると、「あまり改革が進まなくなったような気がする」と答えた舛添要一氏。

 後期高齢者医療制度の見直しのほか、医療保険と介護保険の一本化もやりたかった。そもそも私が政治家になったのは、母親の介護がきっかけです。介護老人保健施設に入所していて、肺炎などに罹ったりすると、病院への入院となる。治れば、また施設や自宅に戻る。そのたびに使う保険が変わり、手続きも手間である上、もっとシームレスなサービス提供につながらないかと思っていました。

 さらに厚労大臣時代以上に今思うのは、40兆円を超す医療費の伸びをどこかで制御しないと国が持たないということ。医療費を賄うには消費増税しかないと思いますが、一方でやはり支出を減らさないといけません。最近の医療費増加は、オプジーボなどの高額薬剤や技術の高度化の影響が大きい。

 ただ、私はこの夏、股関節の手術をし、リハビリに励んできましたが、病院に行くと、マッサージ目的の高齢者がたくさん来ている現実があります。最大の失敗は、老人医療費を無料化したことでしょう(老人福祉法改正で1973年から開始、1983年の老人保健法成立で廃止)。無料だったら誰もがいい加減に医療を使ってしまう。今は少しずつ高齢者の自己負担が上がっていても、医療機関をサロンのように使う慣習はなかなかなくなりません。

――「医師の数が増えると、供給が需要を生み、医療費が上がる」と、財務当局などは考えているように思います。医師数の話に戻りますが、今後の医学部定員はどうすればいいとお考えですか。

 医学部定員は、炯々に減らすべきではないと考えています。2008年度以降、大幅に定員は増えましたが、医師が一人前になるには、卒後10年くらいはかかります。医療の現場に出てくる医師はこれから増えるわけで、当分の間、様子を見てから判断すべきでしょう。

 外来には、いつも多くの患者さんが来ていて、先生方は忙しい。看護師さんなども含めて、とても充足している状況ではありません。電通の元社員の過労自殺が社会問題化していますが、医師の勤務環境も大変厳しい状況です。加えて今後しばらくは高齢者数が増加し、医療ニーズは増すわけです。

 それに、女性医師も増えています。女性医師が産休に入る場合、代替の医師がすぐに見付かるようなシステムにすることが必要です。交代制勤務、あるいは当直を免除できる体制にしないと、復帰も容易ではありません。今はそうではなく、ギリギリのところでやっています。

 仮に医師が過剰になってきたら、別に日本で仕事をしなくても、海外で働けばいい。あるいはメディカルツーリズムで海外から患者さんを呼んでくればいいわけじゃないですか。

 もちろん、地域偏在や診療科による医師偏在を解消することも必要になってきます。私の故郷である福岡県北九州市は医師が比較的多い地域で、“医療難民”にならなくて済みます。しかし、東京などで今後、高齢化が進めば、医師不足は必至。この不均衡をいかに是正するかですが、これは日本の国土の均衡ある発展をどう進めるかという、国土計画の問題でもあると思うのです。

 今の日本だったら、子どもの教育を考えたら、医師は東京や大阪に集中してしまう。医師の地域偏在の問題は、医師の側だけでなく、国土計画も併せて検討することが必要。これはまさに政府全体の仕事です。私が厚労大臣に就任した当時、妊婦の“たらい回し”が社会問題になり、皆で議論したように、国の在り方、その中で目指すべき医療提供体制について、国民的な議論を展開すべきでしょう。

――医師不足については、医師から看護師にタスク・シフティングするなどの考えもあります。

 タスク・シフティングの推進やナース・プラクティショナーの創設などは、日本人のメンタリティーを考えたら、難しいと思いますね。どうしても日本人は、「医師に診てもらいたい」と考えるからです。一方で、医療クラークの導入は、医師が医療に専念できる状況を作り出すことにつながるので、進めやすいと思います。

――最後に、今の医療行政や医療のあり方をどう見ておられるかをお聞きできますか。

 最近、あまり改革が進まなくなったような気がするのですが。厚労大臣にしても、厚労族などと侃々諤々、時にはけんかするほどにやり合う場面があまりない。塩崎君(2017年8月まで厚労大臣を務めた、塩崎恭久氏)も、自民党中でやり合っていたのは、受動喫煙問題くらいでしょう。私が都知事時代は、本当は全面禁煙の方がいいと考えていても、自民党は小さなスナック経営者などに支えられている部分もあるので、分煙の話にとどめていました。塩崎君は、全面禁煙を打ち出して戦った。ただそれだけじゃないかな。ほかの問題について、自民党を2つに割るような医療の議論はしてないと思いますね。

 それと医療界全体の問題として、医療改革関連の本が昔ほど出版されていないのではないでしょうか。この点が気になります。

――それはなぜだとお考えですか。

 政治家の側から言えば、衆院の小選挙区制の問題。中選挙区制の時代は、「あの先生は、他のことはあまりやらないけれど、医療についてはものすごく知っている。だから、落選させてはいけない」といった議員が党を問わず存在しました。しかし、今の小選挙区制では、オールマイティーな問題に対応しないと当選しにくいので、専門家が育ちません。特に専門性が高い医療はそうです。

 政治がそんな状況であれば、医療が政治的イシューになりにくい。結果的に、「議論」が活発化しにくいのかもしれません。

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